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その城壁の都市は北の黒い森を抜けた草原にあった。
その街には人の数倍の犬がいて、必ずどの人も犬を連れていた。
やがて、やはり犬を連れた警官が私を見つけ、入国手続きをお願いしますと役所に連行された。
メガネをかけた神経質そうな男が書類を渡し、入国目的を尋ねてきた。
「永住希望ですか? 短期滞在ですか? 学術調査ならば良いですが、観光目的ならばお引き取りください。」
やはり、ここでも犬が横にいた。
「旅の途中、偶然この街を見つけました。この旅はプライベートなものですが以前民俗学を専攻していて、学術的に興味があります。この街は実に犬が多いですね。また、皆さん、必ず犬を飼っているようで」
と答えると、その男は犬と顔を見合わせて失笑した。
「本当、この街のことを知らずに迷い込んだようですね。」
と男は再び犬とアイコンタクトを取った後、襟を正して話を続けた。
「ここは犬たちが造った街です。私達人間は犬に飼われているのです。こちらは私の主人ハリーバンズ様です。」
犬はこちらを向き、口を開かず小さく低い声で吠えた。
「私は人間との通訳をしているだけです。入国判断はバンズ様が行います。」
再び犬は低い声で吠えた。
私の頭はこの突拍子もない話に激しく混乱した。かろうじて一言。
「もう少し詳しく教えてもらえませんか?」と。
男は話を続けた。
「人間の世界では極秘にされてますが、数十年前にこのスマートフォンを使って犬と人間がコミュニケーションできるソフトが開発されているんですよ。そしてごく一部の犬は人と同じレベルの知性があることを人間に理解いただき、犬の国を築くことができたのです。」
男はアイコンタクトを取り、犬は頷き、再び話を続けた。
「ここにいる多くの犬たちは人間のコンピュータ言語を理解し、IT関係の仕事で外貨を獲得し、生計を立てています。そして、ここにいる人たちは自分達の住んでいる社会に嫌気が差し、我々犬に飼われていることを選択した人たちです。ただ、飼うと言っても人間のペットを飼う感覚ではなく、労使関係以上、パートナー関係未満という感じにでしょうか。」
「そ、そうなんですか。。。」
少しずつ理解できてきて、徐々に混乱が収まってきた。
男はつづけた。
「私達人間の役目は1/3が人との仕事の仲立ち、1/3が犬たちだけではできない建築や医療などの生活に必要な仕事の補助、残り1/3が愛玩でしょうか? と言ってもハリー様はあまり私をかわいがってくれませんが。。。」
と言うと、隣のハリーがワンッと一言吠えた。
その声はちょっと怒っているが優しさにあふれていて、二人の関係が少し羨ましいと思った。
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という感じのSF小説ネタを考えました。
今のペットって主従関係というより、パートナーというか対等な関係を築いている人たちが多いですね。もし、人間も人間以外に「飼われる」とどうなのかなと思って、触り部分だけ書いてみました。
気分が乗ったら、後日続きを考えてみます。