先日、国境に翻弄された話について書いたが、今回は市境について。
日本に住んでいると市の境界があるのは当たり前。市だけでなく、都道府県、町や大字でも当然境界があります。以前書いた記事の富士山頂付近の県境を曖昧にするケースもありますが、これは例外、本当珍しいケースです。
しかし、世界で見ると例外だらけの国もあります。
そして、個人的に苦労したのはアメリカ合衆国(U.S.)。
日本の地方行政階層は国の下に都道府県があり、その下に市町村。市のうち政令指定都市の下には区があります。
同様にアメリカの行政階層は国の下に州があり、州の下はというと、、、これが悩みどころなのです。州の下にはカウンティー(County)、日本で言うと郡があります。一部※を除き、U.S.の国土は何からのカウンティーに属していますが、基本カウンティーが行う地方行政業務はほとんどなく、国勢調査のときにその調査エリア単位使うくらいです。もちろん、住所表記に使われることもなく、辛うじて自分の住んでいるカウンティーは知っているが、それ以外は知らないという人が多いです。
行政的には基本シティやタウン(タウンシップ)、厳密にはIncorporated City / Town (Township)が州の下に来ます。警察、消防、上下水道などの行政サービスはシティやタウンで運営されているし、住所表記にも記述します。
となるとシティやタウンは一見、日本の市町村と同じように見えるのですが、大きく異なる点があります。それは、どこのシティやタウンにも属していない地域が多数あるということ。しかも、それは無人エリアではなく、僅かだが人が住んでいるエリアでも存在しているのだ。例を挙げると砂漠の国道にあるドライブインとかですね。
では、この人たちの行政サービスは?というと、一部はカウンティーがフォローしています。実は保安官(シェリフ)というのはカウンティーの公安職で、市が運営している警察署、警察官とは表現を分けていたりします。とは言っても、広いエリアをフォローすることはできないので、ほとんどが自前で何とかしているみたいです。
私が担当していたカーナビの地図データでは今どこを走っているかを表示する機能があり、U.S.では州とともに基本、シティーとタウンをその両方がないときはカウンティーを表示するという仕様にしましたが、ここで大きな問題が。。。
多くのシティーやタウンで境界線が明確になっていませんでした。そして、この原因はそもそも境界線を役所で明確にしていない事実が判明しました。正確に言うと、都市部でシティーが隣接している場合は両市で協議して決めたりするけれど、隣のシティーやタウンの間に造成されていない誰の土地でもない砂漠や山岳地帯がある場合、境界線が明確になっていません。
この事実は日本人から見たら衝撃でした。納得いかず現地の地図供給元の担当と何度も話をして、それを理解した後も上司に説明するのに苦労しました。
確かに現地的には誰も住んでいないエリアの境界線は明確にする必要がないということですが、そうなるとどこまで〇〇シティーと出すか判断できないということで、カーナビ地図を作る上で非常に大きい問題でした。
現地の地図供給元の会社担当にこちら側の事情を話し、説得して、翌年、全U.S.のシティー、タウンの境界を判定できるデータを整備してもらいました。
当時、この問題をシティーやタウンとの間に隙間があるということでGAP問題と呼んでいましたが、正に市や町がないという事実はカルチャーギャップでした。
ところで、シティーやタウンではないところに住んでいる人は、カウンティーでは広すぎるが、どうやって手紙を届けているのか? その話はいずれ別の機会に。
※)Countyと同じような意味ででルイジアナ州ではparish、アラスカ州ではboroughが使われている。また、ワシントンD.C.やニューヨーク市も特別扱いになっています。