未来そうぞう日記

知的障害を持った息子と巡る日曜の東京、神奈川周辺の散歩、未来予想(妄想?)、そして気になる話題を報告します。

フラグかと思った「余命10年」(少しネタバレあり)

今週のお題「最近おもしろかった本」

 

ここ1年で、個人的な思いで買って良かったのが小坂流加さんの小説「余命10年」です。こちらは以前の記事でも書きましたが今年2022年3月に映画公開されていて、4月くらいに本を購入しました。

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この本の中では舞台は群馬ですが、映画では作者の出身地である静岡県三島になっていて、同郷である自分としては昔から気になっている小説のひとつでした。

小説のあらすじとしては正にタイトル通りで「余命10年」を宣告された主人公の女性がどのように残りの人生を生きたかという話。そして、それはこの作家の「自叙伝」的な小説でもある。

小坂さん自身が不治の病に侵されていて、小説の中では漫画家になっているが、彼女自身は作家になることを目指していて、フィクション部分はあるが小説に自分の姿を大きく映し出していたようだ。

 

この小説を知ったのは数年前。三島市の本屋の宣伝ポップで知った。地元の作家として興味はあったが、タイトル的にハッピーエンドではないことはわかるので避けていた。そして今年、実は父親が昨年末に心疾患で倒れ、入退院を繰り返していて、4月の半ばに3度目の緊急入院。そんな時期に偶然YoutubeにアップされているRADWIMPS「うるうびと」のPVを発見。実家のある「三島」と「余命」という2つのキーワードが一致し、勢いでこの本を買ってしまった。

 

正確には「逆フラグ」的な意味合いで購入した。小説のタイトルは余命と言っても10年。父もそれだけ生きれば男性の平均寿命を超えるから、これをひとつの縁起担ぎとして考えた。

 

そして、緊急手術。待合室に持参はしたが、さすがに読む気になれず、別の本を読んで時間を潰す。結局11時間を超す大手術。翌朝、面会したとき、看護士さんが「無事戻ってきてくれましたよ」の一言。もしかしたら心臓手術では止めていた心肺を再起動させるので「戻ってきた」かもしれないが、やはり三途の川を渡らず「戻ってきた」という意味で捉えました。本当、今回はかなりやばかったみたいです。

 

で、横道それましたが、この小説の特筆すべき点は余命宣言された主人公「茉莉」のリアルな葛藤でしょうか。「リアル」と言っても自分がその状況になったことがないので何がリアルかなんて語ることはできませんが、明るく振舞うシーンがこの刹那だけは病気のことは一切忘れて楽しくやろうというのではなく、残り人生が少ないことを正面から受け止めて今を頑張って楽しもうという前向きな姿が、しかし前向きと言っても病気を嘆いていた人格を180度変えるのでなく、覚悟を決めて受け止めた描写がとても良かったですね。

 

全体的に描写やストーリー展開な稚拙なところはありますが、1/4を過ぎたころから作者自身がなんらかの覚悟を決めたのか勢いが変わり、それが伝わるとどんどん物語に引き込まれていきます。もちろん、どうしても最後の方は泣けるシーンが多いのですが読後が爽やかで、さぁ、頑張って生きてみるかという感じになります。

 

さすがにお涙頂戴系は苦手の人に勧めませんが、そうでない人は是非読んでみてください。